握り締めた手は汗ばんで、話している内にいつの間にか涙腺が開放されてしまっていた。汗も、涙も止める方法が分からなかった。
「若葉ちゃんッ…!ごめん、ごめんなさい!ごめんごめんごめっ…」
気づけば健太さんの腕の中だった。言葉を紡ぐたびに、ぎゅっぎゅっと力が込められ、健太さんの思いが若葉の中に流れ込んできた。
外側から内側から感情をぶつけられ息も出来ない。
だけど、それが嬉しかった。
若葉はそっと健太さんの背中に腕を回し、子供をあやすように鼓動と同じリズムで背中を叩いた。
生きていることは、悲しいこと。
だけど、生きているから悲しむことが出来る。
お父さんとお母さんの記憶を、思いを忘れないことは、健太さんにとっては罪の意識と背中合わせかもしれないけれど、こうして分け合うことが出来ることが伝わればいい。
ゆっくりと離れた健太さんは目の縁を真っ赤にながら、初めての照れ笑いをしてくれた。つられて若葉も目を細めた。
「健太…、お前はずっと苦しんでいたんだな」
健太さんの背後から聞こえた声は、鮫島さんのもの。
それは独り言に近く、無意識に漏れた呟きのようだった。
「……すまなかった」
そう言った鮫島さんは立ち上がると、スッと頭を下げた。
その肩はわずかに震えていた。