健太さんは、より一層顔色を悪くしながら若葉の方へ重い足取りで近づいてきた。目の前で止まったかと思えば、健太さんは力なくへなへなと床に座り込んだ。

「健太…さん?」

若葉の問いかけに答えず、健太さんは顔を斜め下に傾けたまま、オーナーさんに視線だけを向けて口を開いた。

「オーナーさん。若葉ちゃんのご両親、悠一さんと千春さんが車に乗り込み、どこへ向かう途中で事故にあったかご存知ですか?」

「いいえ…、知らないわ」

なるべくそっと頭を振るオーナーさんの様子から、壊れやすい飴細工に囲まれたような緊張感が漂う。

「…ですよね。これは今まで誰にも言えなかったことです。悠一さんと千春さんが亡くなったあの日、実は……僕が『父さんが倒れたから助けて』って電話してたんです…っ。そして駆けつけてくれる途中に……2人は……うゔっ……!!僕の……僕のせいなんですっ!あの時っ!僕が電話なんかじなぎゃ……若葉ちゃんの両親を奪うことにはならなかったんです!!っふ…ぐっ!!」


唸るような苦しい呻き声を上げて泣き崩れ、深い後悔に押し潰されている健太さんを目の前にして、なんと声をかければいいか分からない。

こんなとき言葉は本当に無力だ。
そして…長い間たった1人の胸だけに納められていた事実は、なんとも両親らしい真実だった。

若葉は飲酒運転をしていたトラックに正面衝突されたということだけを聞かされていた。最後の姿は親族の判断で見せてはもらえなかった。

どこに行こうとしていたのか。そこで何をしたかったのか。ずっと誰にも答えをもらえないと思っていた疑問が、勇気ある1人の男の人のおかげで解き明かすことが出来た。

お父さんとお母さんは、倒れてしまった鮫島さんを助けようとしていた。

だけどそれと同じくらいに、父親がどこで何をしていようとも、それでも親を想える優しい健太さんの心を助けたかったはずだ。