ずっと欲しかった言葉。それに甘えるつもりは到底ないけれど、それを基盤に頑張りたいと思い始める若葉がいた。

「オーナーさん!わた──

「まぁ……ね。無理にとは言わないわ、無理にとは……ね」

若葉が承諾の言葉を発しようとしたとき、ふっとオーナーさんの表情に陰が表れ、企みを含む怪しげな瞳が卑しく光った。

やばい?そう思った若葉だが、時既に遅し。オーナーさんは目の前の扉を優雅に開き、両手を広げながら若葉をギョロリと見下ろした。

「この若葉ちゃんの部屋にかかった家具一式、要からの会計報告によれば……ベッド10万、机・椅子3万、テレビ4万、タンス12万、カーペット2万、照明1万 ──」

金額を次々に読み上げているオーナーの声は途中で届かなくなるほど、室内の内装に唖然とする若葉。

白を基調とした部屋には、女の子らしさを引き立てる可愛らしいデザインの家具が綺麗に配置されていた。

……かわいい!!

若葉は興奮を隠せないまま、部屋の中に入った。

一通り家具を触り確かめたあと、期待に満ち溢れた表情でオーナーさんに問いかけた。

「オーナーさん!ホントにここに住まわせていただいていいんですか!?」

「……ええ、勿論。気に入ってくれたようでなによりよ」

オーナーは無機質な鉄壁の笑顔で、さらに続ける。

「総額50万円。テキパキ働いて、全額返済がんばっ!コツコツでいいのよ、特別待遇で利子はつけないからっ!ほほほほ~」

「え、それは……脅迫ですか?なんてー……あはっ、あははは」

まだ了承していない若葉に突然突きつけられた莫大な金額の借金。

返済を余儀なくされた脅迫紛いの言葉に、軽い冗談であれと期待したが、それはドスの聞いた男性の声を出す目の前の美人女性によって、一瞬で抹消された。

「ふっ、小娘さんよぉ。いくら可愛くても、タダでモノはやらねぇよ?世の中そんな甘くちゃ楽しくねぇもんなぁ?ひとつ賢くなったつーことで、絶世のオカマオーナーの私にひれ伏しながら働けぇ!馬車馬のように働けぇ!ははははっ」

心の底から楽しそうに高笑いし、部屋を出ていく悪魔のようなオーナーの豹変ぶりに、信じられないとカタカタと震える若葉がぽつりと呟いた。

「オカマさんだったんだ……」