上半身を壁に任せて気持ち良さそうに眠ってしまった琢磨くん。普段見ている強気な彼の面影はなくて、子供みたいにあどけない寝顔。

朝から雨が続いていたせいで神経がピリピリと張り詰めて、精神が疲れてしまったのかもしれない。今だけは、天気を忘れてゆっくり休めるといい。

そう思いながらベッドの端に置かれていた掛け布団に手を伸ばそうとした。

「に!……あーと、あー……」

若葉の伸ばした腕はピタリと静止した後、静かに元の位置に戻る。

瞳だけを左に移して、隣を見てみれば、視界にはしょんぼりとした黒髪の一部だけが入った。

雨の湿気にやられているその髪の持ち主の頭は、若葉の肩の上にあった。

相変わらずのスースーという穏やかな寝息を左耳がすぐ拾うという、この近さ。

ありがちな光景というか、お約束というか、そんな状況に置いても若葉にとっては初めての肩コテン。──ちなみに、お父さんがこの状態を肩コテンと言っていた。

髪が耳の中をくすぐるし、少し気を抜けば頭がズルリと落ちそうでハラハラするし、呼吸のせいで肩が揺れて睡眠の妨げになるのではと心配になって息を止めるも当然限界がくる。

電車で肩コテンをしているカップルを羨ましいなんて思っていたけれど、これを平然とこなすなんて、なんという高等技術。

世の中、乗せられた側も頭を寄せる『肩コテン返し』もあるというのだから驚きだ。──これも若葉父発祥。

自分なら、相手の頭を挟むなんてことをすれば、相手が目を覚ます程に緊張で全身が震えるに違いないと、肩コテン返しが出来ないことに妙な自信が芽生えた若葉だった。