未だ頬を赤く染める黒髪ツンツンの男性は、「ふーん……」と言いながら近くのテーブルの縁に体を預け、両手を頭の後ろに組んだ。

一応理解してくれたようだと、一先ずホッとしていると、『きょうへい』さんが口を両手で押さえながら驚いた様子で呟いた。

「卒業式……てことは高3?……うわぁ、俺てっきり……」

"中学生の家出かと……"

『きょうへい』さんの口からぽそりと聞こえた童顔を意味する言葉には若葉は慣れたもので、ここに来て何度目かの苦笑いをした。

椅子に座り直し、またコーヒーに口づけようとすれば、するりと伸びてきた手にカップを取り上げられてしまう。

それを視線で追えば、何の躊躇いもなく上矢さんが口をつけて、喉仏はくにゃりとうねった。

「……あ」

「ぷはーっ!若葉ちん、卒業おめでとー!」

上矢さんの屈託のない笑顔に呆気にとられていると、『きょうへい』さんがパンっと手を叩いた。

「あっ!まさか実家で親御さんが待ってる?でもなぁ……送ろうにも店の車は今オーナーが使ってるんだよなぁ……。迎えに来てもらえそう?」

『きょうへい』さんの言葉にドキッとした。動揺を悟られて心配をかける前に、何か繋ぐ言葉を探していると、上矢さんが明るい声で提案した。

「今日は泊まっていきなよ!」

その言葉にすぐさま反応し、上矢さんの胸に拳をトンッと当てたのは黒髪ツンツンの男性だった。