「おい、恭平。その子だれ?どうしたってこんな時間に客が?」
若葉が振り向くと、怪訝な表情で『きょうへい』さんに問う黒髪ツンツンの男性。自分で説明しなくてはと、若葉は慌てて立ち上がり、頭を下げた後、『きょうへい』さんの代わりに答えた。
「夜分遅くにすみません!私…雪村若葉といいます。今日、高校の卒業式に出席して…、暮らしていた高校の寮の退寮式に向かってたはずが…、い…居心地よかった寮を出るのが寂しくて、ぼーっと歩いていたら、いつの間にか知らない場所まで来てて…さらには雨にも降られて、途方に暮れてたところを…こちらの方が声をかけてくださって…」
今日の出来事を思い出しながら、わたわたと早口で説明しているうちに、若葉の胸がチクチクと痛み出す。
事実だけれど、真意はまた別の心情で…。
余計な心配をかけたくなかったから、簡単な経緯を話すだけにした。だけどやっぱり騙しているようでモヤモヤが若葉を取り巻いた。
