憂鬱なる王子に愛を捧ぐ



「当たり前だろ?」

「へ?」

「真知に演技して俺になんか得でもあんの」

開いた口の塞ぎ方を、どうやらあたしは忘れてしまった。
ぱくぱくと金魚が水面で呼吸するように口を開けるあたしの顔を見て、尚は面白そうに声を上げて笑った。

あ、こいつがきちんと笑うところ、初めて見た。
ちゃんと笑えるんだ。

て、そんなことはどうでもいい。
あたしには関係ない。こいつが笑おうが、怒ろうが、泣いていようがどうでもいいじゃないか。

「やっぱり今の尚が本性ってこと?」

あたしの問に、尚は笑うのをやめて視線をこちらに向けた。何も言わずに、また同じようにノートパソコンのキーへと指を這わせる。頬にかかる長い睫毛の影が、酷く色っぽい。

「さあね」

自嘲気味に尚は一言そういい、短い休憩に自らピリオドを打った。
やっぱりこの男がわからない。まだ会ったばかりだというのはただの言い訳にすぎない気がする。

たとえ十年と一緒にいたって、千秋と同様に単純なあたしには、岡崎尚という人間を理解する事なんて、到底出来ないように思った。