「なにすんの!」
「責任持って、緊張をほぐしてあげようと思って」
「……他に方法ないの!?」
きょとんとしてあたしを見る尚に、それ以上何も言えなくなる。
くそぅ……。大きなため息を吐いたあたしにくつくつと笑って、尚はもう一度視線を空に投げた。
何を思っているんだろう。
その瞳が、知らない遠くへ向けられたとき、あたしは時折酷い不安におそわれる。気持ちが通じ合ったら、互いのすべてをわかりあえるなんて嘘だ。ドラマの世界の話であり、非現実的。都合の良い妄想だ。
むしろ、距離が縮まったことで、理解出来ないという事実はより顕著にあたしを不安にさせた。
(何を、考えているの?)
そっと尚のジャケットを引く手に、自然と力が入ってしまう。そんなあたしの様子に、尚は相変わらずすぐに気づく。
「これからのこと」
まるで、あたしの心を読んだかのように、尚はゆっくりと言葉を紡いだ。これから先。未来のはなし。空を捉えたまま動かない尚の視線。隣にいるのに、なぜだろう、尚がとても遠くに感じる。
自分を孤独に追い込んだ葉山章吾への復讐のため、完璧な人間を演じていた尚。感情に嘘をつき、父親からの信頼のため結衣ちゃんと向き合うことを避けて、色々なものを犠牲にしてきた。
「……怖い?」
人を支えるものが、光だとは限らない。
時にそれは真っ暗な闇であるということを、あたしは彼から知った。尚はようやく視線を落とた。

