憂鬱なる王子に愛を捧ぐ



案内放送や行き交う人達の声で、空港内は溢れていた。
結衣ちゃんたちが乗る飛行機のカウンター近くまで行けば、そこには真っ赤なケースを引いた女の子。

「結衣」

雑踏の中でも、その声は真っ直ぐに届く。
ぱっと振り返れば、ふわりと舞ったその薄茶色の髪。黄色のワンピース。本当に、お人形みたいだ。

「……っ!」

その目は、驚きでまん丸に見開かれていた。
結衣ちゃんの隣にいた美香子さんは、嫌そうに眉をしかめてはいたけれど傍によるなとも関わるなとも言わなかった。
仕事があるという理由で、章吾さんは日本に残るという。彼は、本当に誰とも関わらないのだと尚は言っていた。

「結衣、先に言っているわね」

「ママ……、ありがとう」

美香子さんはその言葉に何の反応も示さず、ただ「待ってるわ」とだけ言った。不器用で、分かりづらいけれど、結衣ちゃんにはしっかりと届いたようだ。嬉しそうに母親の背を見つめて、にこりと微笑んでいた。

あたし達は、三人で展望デッキへと移動する。
沢山の飛行機が離陸したり、着陸したりするのを見る。どの飛行機かは分からないけれど、結衣ちゃんもこの中のどれかに乗ってアメリカへ行ってしまうことを思うと無償に寂しい。