問題ないわけ、ないでしょう。

彼の姿が闇の向こうに消えるのを、ただじっと見つめていた。色々と実感がわかない。あの男は最後まで、自分勝手なやつなのだ。

「……っ」

大粒の涙が次々と頬を滑り落ちて、アスファルトの地面に染みをつくる。
拭うことはしなかった。

息も絶え絶えに一頻り泣いて、自分の部屋に置いているミニ冷蔵庫から缶ビールを一本取り出して口をつけた。
ほろ苦い味が咽喉を滑り落ちていくのが心地良くて、そっと瞳を閉じる。

『あたしが好きなのは、尚だよ!』

以前、純子と言い合ったときに思わず口走った言葉がふと思い出されて、なんだか笑える。

馬鹿だよね。
何を気づかない振りしてたのよ、あたしは。

ねえ、尚。いつからかな。

もう覚えてもいないけど。
多分ずっと前から、あたし、あんたのことが好きだった。