「ヒサは?」
「いらない」
面倒臭そうにそれだけを言う。
「家族とか、呼ばねえの?」
その言葉に、他意などない。千秋はただ、浮かんだ疑問をそのまま尚にぶつけただけだ。だって千秋は何も知らないから。
以前に一度だけ、尚のもうひとつの家へと連れて行かれたことを思い出していた。
両親はいなくて、そこにいたのはお手伝いとして働く"美華"さんという女性だけ。彼女はその家のことを、尚に与えられた"唯一与えられた場所"と呼んだ。
無言で首を横に振る尚を、千秋は不思議そうに首を傾げながら見つめる。
「それじゃ、友達とか呼べばいいじゃん。意外に盛り上がって楽しいから、チケットだけでもさ」
「いらないって、しつこいな」
「なんで、」
尚はいよいよ苛立ちが押さえられなくなったようで、小さく眉を寄せて千秋を睨んだ。

