「ほらね、千秋君。こんな時でも、真知は千秋君を庇うのよ。隠れて好きあってたなんて、尚君も騙されてるんだ」
涙を拭いながら、純子がゆっくりと立ち上がる。気を取り直したように悲しげな声音でそう言った。
"…なにそれ、尚君いるくせに佐伯君にまで手をだそうとしてるわけ?どんだけオトコ好きなのよ"
野次馬達の敵意に満ちた視線は、今やあたしにも向けられている。
けれど、そんな騒音さえも、今はまるで自分から随分離れたところから聞こえるおかしな現象。
「純子、あんた誤解してるよ」
もう何かに飲み込まれたりなんかしない。
あたしは自分自身を奮い立たせるかの様に、キッパリとそう言った。
「千秋は、あたしが好きなんじゃない」
あたしって、つくづく恋愛に向いてない人間だ。15年間も好きだった人に対して、こんなことを言わなきゃいけないなんていっそ哀れ。
「誰より、純子が一番好きなんだよ」
「……真知」
千秋は、呟くようにあたしの名前を呼んだ。

