憂鬱なる王子に愛を捧ぐ


去ろうとする背中。

あたしは震える指先を拳に変えてぎゅっと握った。
ぎりりと歯を食いしばる

「待ってよ、千秋!!」

今までずっと、自分から一歩を踏み出そうとはしなかった。

ただただ、待っていたのだ。
千秋が振り返ってくれるのを、胸を焦がして待っていた。

初めて踏み出す一歩は重くて、震えるくらいに怖いけど、あたしはようやくそれをする勇気を持てた気がした。

誰のお陰かなんて、悔しいから口に出さない。
ちらりと尚に視線をやれば、やれやれと目を細めている。

一歩、また一歩と足を動かして、千秋の肩を掴んであたしへと振り向かせた。そんなあたしに千秋は目を丸くして驚いている。

「話を、聞いて」

「……聞くことなんか」

―パシ。
弾ける音と同時に、掌に痺れが残る。信じられないという顔で千秋があたしを見た。

「何して、」

「叩いてごめんね、千秋。でも千秋、ちゃんと聞いて欲しい」

あたしは初めて、大好きな幼馴染に手をあげた。