【短】そらとタイヨウ



「………そっか」

一言、彼女はそう言った。
……目に涙を溜めて。


全部は話していない。
そらのことも、話していない。

所々、概要だけ。

それでも彼女は全てを悟ったようだった。


何故今日初めて会ったこの子に、こんなに話せているのか、自分でも不思議だった。



暫く沈黙が続いた。

別に腹が減ってるとか、そういうことじゃなくて、何となくこの空気が居たたまれなくて、俺は手に持っていたおにぎりを口の中に含んだ。



……………っ!


何だ…これ。

ただのおにぎりなのに、ただの白い飯なのに、

何だよこれ。



「………うまい」



口の中に、甘味が、旨味が、広がっていく。

これまで、味のする食べ物なんか、美味しく感じる食べ物なんか、食べたことなかったのに。


目の前にあるこのただのおにぎりが、今日の俺には何故か感動的に美味しく感じた。


スッ―…


「…………え?」


いきなり彼女の白い綺麗な指が俺の頬に触れた。


「何、泣いてるの?」


え?俺……泣いてる?


目の下を拭うと、確かにそこには水滴が流れていて。

それは後から後から滞りなく静かに溢れてくる。


何なんだよ、俺。




「………相変わらず泣き虫だね。タイヨウ」


……………え?

聞くはずのない単語が聞こえて、思わず横を見る。

そこには、俺よりも大量の涙を流してる彼女がいた。

「……なんで、君も泣いてるの?」







「タイヨウが泣くから、そらも泣くんだよ」


そう言って泣きながら優しく笑う彼女に、

…………耳を、疑った。


涙なんか、一気に引っ込んだ。