「転校生くん。
さっき、こんな寒い冬の屋上で何やってたの?」
つい今まで笑ってた彼女がふいに真面目な顔になってそんな事を言う。
……何なんだ。
その話題は終わったと思ったのに穿り返しやがって。
こいつの真意が分からない。
「……何でもないって言っただろ?」
つい本音の口調が出てしまった。
でも、彼女はそんな事を気にも止める風もなく。
「空、見てたの?」
「………は?」
いきなりの予想外の質問に少し面食らう。
「ほら!こんな綺麗な快晴の天気だからさ?
空を見に屋上に来たのかなぁって!
私も空好きでよく来るんだ」
そう言って、空を愛しそうに仰ぎ見る。
彼女の視線は嬉しそうに青い上へ向いていて、
俺のそれは無表情に灰色の下に向いている。
それが、答え。
「俺は嫌いだよ」
「え?」
「空は、嫌いだ」
「………そう、なんだ」
そうして青から離れた彼女の視線に、俺は幾分かの罪悪感を覚えた。
何故かは、分からない……。
「なんで、嫌いになったの?」
俺の顔を覗くその顔があまりにも真剣で、哀しそうで、優しくて。
寒い中、隣通しに座る体温は自然と近づいて。
頭上にある憎いものが余計なプレッシャーを与えたせいなのか、
ただ単に俺の心が狭いせいなのか、
分からないけど。
俺は今日初めて会ったこの女に、
自然と、心を許してしまったのかもしれない。
「昔は好きだったんだよ、空。
………大好きだったんだ」
そっと組んだ腕の中に顔を埋める。
俺の記憶は虚しい昔話へと遡っていった。

