「転校生くん。
こんなところで何してるの?」
いきなりの背後からの声。
予想外の展開に思わず足を引っ込める。
人前ではしたくない。
理由は…どんなに反吐がでるクサい言葉を浴びせられるか分かったもんじゃないから。
「…………計画、変更だ」
惜しくも今日の舞台は延期になりそうだ。
「え?何?」
「……何でもないよ」
そっと手すりから手を離す。
見ると、真っ赤になった手のひらには手すりの跡がくっきりと残っていた。
もしかしなくても俺、緊張してたのか?
ハッ、情けねぇ。
自分でも気づかなかった自分自身のひ弱さに吐き気を覚える。
"実験台"を一瞥すると、
何の音も立てずに俺は声の主を振り返った。
「……?」
そこには頭にはてなマークをつけた、長い黒髪の女子。
なるほど。この季節にぴったりの赤い大きなマフラーを首に巻いている。
何故こんな寒い日に屋上へ来たのか。
疑問を持ちながらも、俺はスッと彼女の横を通りすぎると、
屋内へと続くドアに足を進めた。
ガチャ
「………?」
ガチャ、ガチャ――……
…………開かない。
「あー、閉められちゃったね?」
背後からの声に、仕方なく反応を返した。
「………なぜ?」
「この学校、屋上立ち入り禁止なんだよ。
でもよく管理人さん、鍵を掛け忘れるんだ。
で、思い出して掛けに来たんだね。きっと」
私たち、閉じ込められちゃったね。そう言って笑った彼女の顔に俺は、
どこか、見覚えがある気がした。
でも、その笑顔は俺の見覚えとは異なっていて、
顔は笑ってるけど目が笑ってない。
俺の苦手とする、悲しげな笑顔だった。

