キーンコーンカーンコーン


学校の独特のその音がまるで合図のように、俺は右手を離した。


「いってらっしゃい。

素晴らしい実験結果を楽しみにしてるよ」


俺の手から放たれたその"実験台"は、これから約10mの空中旅行だ。


それは着実に地面に吸い寄せられる。

俺は瞬きもせず、その光景を目に焼き付けた。


この世界に重力より強い力なんてないんじゃないだろうか。

ふと、そんなことを思った。


世界的常識で言えば1秒とも満たないその時間、俺は何分もの時間に思えた。


こんなに長い時間なら、案外最後の空中旅行も楽しめるかもしれない。



"実験台"が地面に到着した。

グシャッという期待通りの音と共に、白いカラからは黄色い内臓がありありと存在感を示した。



手にポタッと滴が落ちる。

雨かと思ったが、空は雲一つない晴天。


瞬時に身体の中を動き回るこのわけの分からない感情を無理やり抑えこむと、
すぐさま下を向いた。


どうもこの滴は雨ではないらしい。


それが自分の額から流れていることに、俺は気づかなかった。



家庭科室、覗いてみて正解だったな。




「実験完了。

いよいよ、本番だ」




厳しい寒さが目立つ12月初旬。




俺は手に力を込めるとスッと足を手すりにかけた。