私たちは、ひやかし半分に、マスターと三人で赤ワインを少し飲んだ。

 くるくるは、小一時間もしないうちに、もう帰ろうようと言った。


 「おやすみなせい」

 「今度は、もう少し、まともな時間においでよ。
  そしたらビールもあるからな」

 
 マスターの声に見送られ、真っ暗な階段の踊り場に放り出され

 階段を半歩ほど下ったところで、くるくるは、通せんぼをして私に唇を重ねた。


 ゆっくりと、華が音も無く深夜に開くような、優しいキスだった。



 駅までの帰り道、私たちはまたのんべえ横町経由うで歩き、いたずらッ子のように

 建物の間に隠れて降りしきる雨の中、大急ぎでキスをした。

 くるくるは、嬉しそうにニヤリとし、


 「彼氏いてもこのぐらいはよくねえ?」


 といいながら、どんどん唇を押しつつけて、私の身体にぐんぐん自分の心を押し込んで
 
 くるようなキスをした。そして、私のジャケットの下に着ていたカットソーの左胸をブラごと

 押し上げて乳首にも軽く神聖なものでも触るように触れた。


 そして電話坂東も交換せずにそれぞれの家に帰った。



 キスをしただけなのに、雨だけでなく全身が内側からも濡れたようなねっとりとした
  
 気持ち良さが記憶に鮮明に残った。