ソフト・コア

  

 「社長にいつの間にか置いて行かれちゃったね」

 
  と私が言うと


 「別にいいじゃん。それより、そろそろ帰らなくて大丈夫なの?」


 そして私たちは店の外に出た。

 私の腕は、自動的に彼の腕に絡んでロックしていた。

 
 「ねえ、行きたい所があるんだけれど、一緒に行かない?』


 私は必死に聞こえないように誘った。

 「俺もう呑めないよ。それでよければ、いいよ」

 「くるくるは、あんまり呑まないんだね。 さっきからビールばっかりじゃん」

 「俺は、ゆっくりとほろ酔いでいるのが好きなの。だからビールを呑むんだよ」


 

 そして、もう二人ともほとんど呑めないのに、
 澁谷の南にある私のよく行く隠れ家風のバー

 K−Boatに行った。


 そのバーはエレベーターのない古いビルの4階にあって、

 千鳥足の私たちは時折大胆にぶつかりながら、店のドアにたどり着いた。



「こんばんわ」


「こんな時間に、何だよ。もうビールサーバー洗っちゃったからワインしか
出さないよ」

半分笑ってそう言った。

K Boatのロン毛マスターは、かなり酔っていて、
もう接客が面倒みたいだった。