何度忘れようとしても

けれど「どこまで行きますか?」と聞くタクシーの運転手に、佐伯くんは全然答えてくれなかった。

「ねえ佐伯くん、家どこだっけ?」

私が聞くと

「井川さんちに帰る」

とだけ言って佐伯くんは寝てしまった。

困ったなあ・・・どうしよう。

私は、泥酔しても品格を保っている佐伯くんの寝顔をしばらく見ていたけれど、いつまでもタクシーを待たせるわけにもいかないので仕方なく連れて帰る事にした。