「ことのんが襲われた。そのことを警察は知ってても、あんたが知ってるはずはないんだよ! 樋山さんよ!!」
「なっ……!?」
驚きの声を上げたのは、樋山だけではない。
朋恵や郁美、高橋は驚いて目を開き、透はじっと樋山を見つめ、村長はただおろおろとしている。
炯斗だけが樋山に冷たい視線を投げかけて睨んでいる。
「この犯行は羽田さん一人ではこなせない。なにせオーナーだからな。何かあったときに対応できませんでしたじゃ済まされない。
おまけに、飛び入りで泊まることになった俺たちみたいな不安要素があったら余計にだ」
「……」
「誰か自由に動ける人物が必要だ。周りから何をしてても気に留まらないような人間がな。
それがあんただよ」
樋山は黙っている。
じっと耐えるように、うつむいて表情を見せずに。
炯斗は睨みつけたまま、まくし立てる。
「あの夜、夕食を終えて部屋に戻った克己さんの意識を失わせ、二人で車に運んだ。
車をいつでも出せるようにしたあと、羽田さんが火をつけていい具合のころにあんたが外から『火事だ』って叫べばいい。
皆が混乱している間に車を出してロープウェイまで行ったらもう終わりさ!
おおかたゴムの準備は気絶させてすぐやったんだろうな。
コの字型で右側と左側に部屋が分かれるこのホテルで、左側に泊まっているのは克己さんだけだった。
何かやってたとしてもフロアも方向も違う俺たちが気づくはずもないもんな!」
ピクリ、と樋山の肩が動いた。
炯斗はまだ続ける。


