今なら意味が分かる。
その言葉は、すべて克己に向けられていたのだ。
『死んじゃうその間際まで、ずっとだよ? おばさんは、誰も恨んだりしなかったの……』
ずっとずっと、玲子は克己を信頼していた。
けれども、互いが目の前の敵だとは、遂に気付くことはなかった。
そして、玲子の思いは無念の果てから梓に伝えられた。
しかし、梓もそれを誰にも伝えることないままに自殺を選択してしまった。
別れてから、一度でも三人が再会していれば、
梓がもう少し、悟が帰るまで我慢していれば
悟がもう少し早く帰れれば、
悟が暗号を解読していれば
起こるはずのなかった事件。
それは、ただ大きな間違いで、本人の精神に大きなケガを負わせて終わってしまった。
起こす必要のなかった事件でだ。
羽田が落ち着いてきた頃を見て、言乃はうずくまる羽田の隣にしゃがみ込んで語りかけた。
「羽田さん、ここまで来たらもう理由はありませんね? 自首して下さい」
「………ああ…」
羽田は、ゆっくりと立ち上がった。
その顔に、涙の跡がくっきりと残っている。
その彼を支えるように恵がそっと手を寄せた。
「行きましょう、羽田さん。貴方の手で事件を終わらせるんです」
「何を…?」
「事件はまだ、終わってないんです」


