恵が喋り終えても、声は頭の中で渦巻いて、羽田を取り込む。
「……―――…?」
何も言えなかった。
何かを言わないと、そう思って口だけ動かすのに、言葉はない。
何も――――ない。
「お分かりになりましたか?」
言乃が優しく聞いた。
だが羽田は茫然と突っ立っているまま。
分かるものか。
分かるはずがない。
判らない。理解らない、何故だ?
「何でだよ……? あいつは、あんたから故郷を奪ったんだろ? あんたを追い詰めて、殺したんだぞ……? なのに……どうして、そんな風にっ、」
いるんだよ、というその声は、崩れた羽田の足元と共に消えた。
何で、どうして――嗚咽の間に漏れる、答えを貰える相手のない問い。
うずくまってただ涙を流す姿に、ありし日の無力な青年が垣間見えた。
『ごめんね、悟。私まで一気にいなくなっちゃって……辛かったよね、苦しかったよね』
アズサが、羽田にそっと身を寄せて繰り返し謝った。
半透明な彼女にも、流れるものがある。
『でもね…おばさん、ずっと言ってたんだ。信じてるからって。何があっても戻ってきてくれるって』


