空耳此方-ソラミミコナタ-


言乃は、羽田の日課の荷物を指差した。
バケツに雑巾。
どうみても掃除用具。

「私には、お墓参りついでに掃除をしにきたように思うんです。だってここは、貴方にとって大事な場所でしょう?」

「………」

「ほら、暗号もこんなきれいに残ってますよ?」
愛した家族の墓を綺麗にするように。
玲子やアズサの思い出だけではない。
島を奪われた思いも込めて、彼女らの残り香をいつまでも、鮮明に残している。

羽田が二人の家族をどう思っていたか、よく伺える。

しかし、一つだけ大きな間違いをしている。
言乃はその綺麗な暗号にそっと手を置いて、羽田を振り返る。

「羽田さん、貴方は暗号の意味を知りたいと思ったことはありませんか?」

「…ッ、どうして知らないってわかる!」

「知ってたらこんな事件、起こるはずないからですよ」

羽田の後ろから恵が言葉を添える。

「私たちは、この暗号を解読しました。
ヒントはこの縦横の長さ。単位を尺と寸にすると、4という数字が揃います。

後は、一文字ずつを五十音順に4つずらせば完成です」


恵はポケットから紙を取り出し、羽田に手渡した。

それには、解読した暗号が書かれていた。