恵は言乃に目配せした。
すぐに頷いた言乃は、懐から一枚の札を出して、壁に張り付けた。
「何を…っ!」
怪訝そうに見る羽田の傍らが一瞬光が煌めき、収まったその場には、微かに透けるアズサが佇んでいた。
「梓!! 本当に…梓なのか…」
『悟……久しぶり、だね』
15年ぶりの義姉との再会に、羽田は口も目も開いて呆然とした。
そんな羽田に、言乃が一歩進み出た。
「失礼ながら私たちは、貴方のお名前が悟だということをすっかり忘れていました。だから、アズサさんが悟という言葉を出しても、羽田さんには結び付かなかった」
しかし、高橋の名簿にはしっかりと『羽田 悟』と明記されていた。
人々の話に出てきた『さっくん』も羽田のこと。
恐らく、名字は玲子に引きとられる以前のものだろう。
「しかし、悟が貴方であると色々なことが繋がります」
家族二人を破滅に陥れた人間である克己を許せなかった。
動機としては十分過ぎるだろう。
そして、羽田ならば花守荘の構造もよく理解している。
羽田ならば、ロープウェイのマニュアルも持っている。
羽田ならば、島で少ない車を持っている。


