空耳此方-ソラミミコナタ-


言乃は中庭の端にある倉庫に近付いた。

大きな倉庫にはでかでかと『防災倉庫』と書かれていて、その隣にやや小振りの倉庫がいくつか並んでいる。

小振りの倉庫に手を伸ばす。

倉庫の鍵は、普通の住宅にもあるものと同じく、普通の差し込む鍵と、つまみを回すと開くものとの、二重になっている。

つまみを掴み、回す。

それでも上部にある鍵を開けないと倉庫の扉は開かないはず―――


―――ガラリ。


……はい?
言乃は耳を疑った。
聞こえるはずのない音―――なのに。

言乃の目が点になる。

すごく遠くで、炯斗が言乃を見失ったことに気付き、声を上げている。


……ガラリって……え…ガラリって……

自分の手が掴んでいる扉を閉める。

開ける。

また閉める。



言乃は倉庫に背を向けた。


えっ……えええええええっっ??


何が、今何が起きたんですか!?


「あ! いたいた、ことのん」

「ひゃあっ!」

飛び上がって、両手を上げた。
指が扉に引っ掛かり、また少し開く。

まずいです!

慌てた言乃は、その隙間に引っ付き炯斗から見えないように――



「何してんの、ことのん?」