外に出て、まずは克己の部屋の真下に来た。
「さっき鑑識に確認したところ、ここにも赤い色のついたガラスが落ちていたそうだ。火事の部屋の窓が割れたものと見てまず間違いないよ」
「なるほど、ね」
そこから裏に回って中庭に出た。
花守荘は、コの字のような形をしていて、開いた方を山に向け、反対側の閉じた面を道路に面して立っている。
道路から向かって左の先端あたりに克己の部屋があり、中庭からも部屋の位置を確認出来る。
火事を知らせた声は中庭から聞こえたという朋恵の言葉と一致する。
つい、言乃が炯斗の服の裾を引っ張った。
「何?」
「ホテルの壁、見てください!」
言乃は興奮気味に声が上ずっている。
視線を克己の部屋から段々下へと移すと──
「す、スゲー!! 何だこれ!」
花守荘の地面に近い壁から身長くらいの高さまで、美しい花の絵が描かれていた。
バラ、スイセン、ユリ、タンポポ──そこらに生えている雑草から花屋でしか売っていないような花まで、何でもありだ。
しかしそれらが、綺麗に馴染み共に咲いている。
「綺麗だよね。これ、羽田さんが描いているらしいよ」
「羽田さんが!?」
壁画よりも、作者のほうに目を丸くする。
高橋は、にこやかに笑って壁画を見つめた。
「ここの名物にしたいんだってさ。もう少しで完成らしい」
高橋は、丁度克己の部屋の下辺りを指差した。
そこだけまだ何も描かれておらず、真っ白だ。
「まだ描かないでよかったな。灰が落ちてきたら台無しになっちまうとこだ」
「それは羽田さんも言ってたよ」


