「転ぶ?」

三人が一様に返した。

よし、どうにか朋恵さんから話題を逸らしたぞ。
胸中で握りこぶしを上げつつ、高橋は頷く。

「事件というのはどれも単純に見えて実に多面的だよ。一面だけ見ていては新たな局面を逃してしまう。 うーん…そうだなぁ…」


ペンをいじりつつ考えを巡らせる高橋。
一拍おいて――


「そう、例えば鹿沢克己は自殺だった!とか」

「違う!」「違います!」


炯斗と恵は同時に激しく言った。
二人に押され高橋は少し身を引いて手を振るった。


「た、例えばの話だよ! …でも今日あり得ない話じゃない。
散歩に出て足を踏み外したのかもしれない。舘見との争いで自己嫌悪に陥って――、とかさ」

「……でも、ねぇよ」

「根拠は?」


何だか小学校の授業見たいだ、と炯斗は思った。
高橋の提示した問いに答え、優しく笑いながら理由を聞かれる。

子供扱いされてるようで不機嫌に口を開く。

「散歩だからといって、んな山の中に入って行くか?昼間ならまだしも真夜中だぜ」


すると高橋は嬉しそうにニッコリして言った。