無言。

炯斗はあてもなく正面を見つめる。

どうする。
今までがシリアスだっただけに下手なことは言えない!

だらだらとまとわりつく汗が異様に暑い。





ダメだ!!耐えらんねぇ!

炯斗はバッと立ち上がった。
克己は怪訝そうに見上げる。と、炯斗の首筋がテカりと輝いているのが見え苦笑した。


…赤の他人なのに無理させちゃったな…


「日奈山君」

「はは、はい!?」

炯斗はぎこちなく振り返った。

プッ!!

緊張に目を見開きだらだらと汗が垂れる顔を見て克己は思わず吹き出した。

「な、なんすか…?」

「いや…ごめん、何でも……プップフ…」

「何でもって顔してねぇよ!」

克己は笑いを飲み込むのに多大な労力を払って普通の顔に戻した。

「僕はもう部屋に戻るよ。ありがとう」

炯斗は安心したような驚いたような複雑な表情をした。


「わかった。気をつけて、な。…じゃあ俺行くな」


恐らく戻るところは見ていない方がいいだろう。
炯斗は足早にその場を離れる。
恵のことも気になる。
早く部屋に――


角を曲がって克己から見えなくなったその時――

「うわッ!?」


――突如、炯斗の影が通路の奥に消えた。