いつのまにか、放課後になっていた。
その日は、保健委員の仕事で保健室によらなければならなかった。

_____ガラッッ
 「…しつれーします、先生。」
 「失礼します、って言う顔、してないぞ。唐沢。」
保健室の椅子に座って足を組んでいる先生。
佐倉 柚子先生だ。
この先生は、工藤先生と同期で、
ずっと一緒だったらしい。幼馴染…だとか。
 「…なんですか、佐倉先生。」
 「呼んだのは他でもない。……すまないが、
アルコール脱脂綿を作ってくれないか?」
 「…そうだろうと思いました。それ以外で呼ばれた事、
まだありませんから。」
 「そうか。物分りのいい生徒だな、唐沢。褒めてやる。」
 「褒めてやる、って言われて褒められても嬉しくありません。」
そう言って保健室の椅子に腰掛けてアルコールに
脱脂綿を浸す。
ツンと鼻に届くアルコールの匂い。
独特の匂い。いや、刺激臭。
この匂いが佐倉先生は、
 「く、臭いぞ!!唐沢!!」
…大の苦手らしい。
マスクを(いつのまにか)装着した佐倉先生は、
マスクの上から鼻をつまんでいた。
 「我慢してください。…すぐ、終わらせます。」
 「そ、そうかっ……!!ぐっ……んぉ…!!」
 「苦しそうな声、出さないで下さい。」
そんなに嫌ならなんで保険医になんかなったんだ。
そう思ったけど聞かなかった。
『大して理由がない。公務員は給料が安定してるし、
楽だと思ったからだ。』
たぶんそういう返答が帰ってくると思う。
 「……はんら(何だ)。はひみへひふ(何見ている)。」
 「いいえ。なんでもない、です。」
アルコール脱脂綿が浸し終わり、仕事が終わる。
千弘も千夏もたぶん待ってるだろうな。
…早く帰ろう。