煙草の臭いが充満するあるオフィスの片隅にある喫煙スペースのベンチに深く腰かけたまま、慌ただしく社内を走り回る従業員らの様子を眺めていた。
つい二年ほど前から設置されたこの喫煙スペース。
世間で禁煙だとかが叫ばれ始め、慌てて予算を削り設置費を捻り出したらしい。
正直阿呆らしい。
副流煙だか発ガンだか知らないが、そんなに健康が気になるヤツなら初めからこんなもの吸ってないだろう。
トントンと鈍く光る灰皿に灰を落とす。
『私は嫌いじゃないけどな』
カチリ、
時計の長針が動く。
『煙草吸ってる時の横顔が好き』
相変わらず忙しそうな同僚たちに一瞥をくれ、思わず漏れたため息と共にグリグリと煙草を灰皿に押し込んだ。
『ね、おいしいの?煙草って』
フッと笑う。
「…いや、マジィよ」
ポケットに指を滑らせ、携帯を取り出してボタンを押した。

