「手を取ってください。私の名前を呼んでください」

 私はその青白い手をしっかりと握りしめた。ザバッと大きな音を立て私は抜け出し、空気を吸い込む。酸素にあふれたなじんだ空気が肺を満たし、ヒタヒタと水が髪からしたたり頬を伝って流れ落ちていく。

「人が落ちたぞ、誰か救急車呼べ」

 遠くの橋の上から喧騒が聞こえポツポツと光る街の明かりが目に映る。数分前に見たはずのそれらが、とても懐かしいものに感じられあふれ出た。目深にかぶった黒いパーカーの背に、青白い月が淡く光り心地よい風が吹く。私は、濡れそぼった袖でごしごしと顔をぬぐった。