「………そうか……」
"よかったな"そう口にしたいのにうまく言葉が出ない。
「は、はい………」
お互いに気まずい沈黙が広がってしまった。
「…せいせいするな。やっとうるせーのがいなくなるって事だ」
俺がふざけたように笑うと、テレサもわざと怒ったような顔をする。
「本当は寂しいのに、強がらないで下さい!泣くのはお兄様ですからね!!」
その言葉に俺達は同時に笑みを浮かべた。
「いつ城に上がるんだ?」
「…明日です」
明日………?
早すぎやしないか?
「随分と急ぐな」
「私と一日も早く結ばれたいとおっしゃって、つい…」
ついって………あ。
そういや明日は戦へ出る日じゃねぇか…
「テレサ、俺は明日から戦に出る。この邸で一緒に過ごすのはこれが最後だ」
「戦…ですか……?」
テレサの顔がみるみる青ざめる。
コイツは…内戦の事を思い出してるんだろう…
俺が戦に行くっていう度に泣きそうな顔をしやがる。
「テレサ、俺は死なねぇよ。お前がいるこの国を残しては逝けねぇからな」
「お兄様…。そうですね、そう言ってお兄様はいつも帰ってきて下さりました」
涙を浮かべて笑うテレサに俺は笑顔を返す。
「テレサ、城に上がってもあの約束だけは守れ」
テレサは強く頷く。
「はい。この力の事は誰にも…自分の墓まで持ち帰ります」
テレサの力…
アストラルは少し特殊だった。
生き物の声にならない声を聞く、世音のアストラル。
「お前の力は十分戦の道具になる。誰にも喋るな」
「はい。この力を戦に使えばこの国はもっと強くでしょう。でも…新たな戦火を生みます」
テレサは胸に手を当て、瞳を閉じた。
「テレサ、俺はお前が嫁ぐ城、お前が見守る国、それからお前自身を一生をかけて守ってやる。その力をお前が使わなくてもいいように。こんなんでも一応妹だからな」
これは素直な気持ちだった。
俺の傍からコイツが離れても……
守る場所が変わっただけだ。
「…っ…お兄様!!」
―ガバッ
「はぁ…泣くんじゃねぇよ…」
抱き着いて涙を流すテレサの頭を撫でる。
そうだ…こいつのいる国を守ろう…
誰からも望まれないこの汚れ、壊れた国を…
ただ大切な者の為に……


