「初めは、あんなに驚いたのに…慣れっちゅーのは恐ろしいなぁ…」

3年が経ち、外の風景にも慣れてしまった
車が宙を走行することも、少し違和感を感じる程度になっている
いつかは、当たり前と感じ違和感さえ感じなくなるだろう

「そういや…母さん何処や?」

先ほどまで、ベランダで洗濯物を干していた母親…美紗子(みさこ)の姿が見えない
それ程長い間考え込んでいたのだろうか…と思いながら、絵本を本棚に戻し母親を探す
普通なら探すことなどしないのだが、今の美紗子は妊娠10ヶ月ちょっと…いつ産気づくか分からない

(ぁ…おった)

美紗子は、すぐに見つかった
キッチンで、鼻歌を歌いながら、ケーキ作りに励んでいる
そのお腹は、出産を間近に控えているだけあって、大きい

「お母さん」

優希が声をかけると、美紗子は作業を一時中断し、振り返る

「なぁ~に?優希ちゃん」
「お腹…大丈夫?」

優希が心配そうに尋ねると、美紗子はニッコリ笑い優希に抱きつく

「大丈夫よ~♪心配してくれるなんて優希ちゃんは優しいのね~♪♪お母さん嬉しいわ!」
(別に優しいとか、そんなんや無くて…
家族やねんから心配するんは、当たり前やねんけど…ま、いっか)

美紗子が大喜びしているので、余計なことは言わないで置こうと、出かかった言葉を飲み込む

「ケーキ、もうすぐ出来るから、楽しみに待っててね♪」

ニコッと笑う美紗子に、優希はコクンと頷きキッチンから出る
リビングに戻った優希は、再びカレンダーを見る

(まぁ…いつ生まれるかなんて、誰にも分からへんねんから
んなに、気にせんでもえっか)

気にしない事にし、時間潰しに何をするか…と考えだした時

ガタン!!

「!?」

キッチンの方から大きな音がした
今、家にいるのは優希と美紗子の2人

(もしかして…!)

優希は、美紗子の元へ大急ぎで駆けつける