男はぎゅっと固く瞼と唇を閉じ、答えようとしなかった。
「……栗木、君?」
搾り出すように、その名を優ちゃんが口にした瞬間、男の体がびくんと反応して、男は身を小さく縮めた。
「……ごめん、下の名前は思い出せない。でも、栗木君だよね」
「知っている奴なのか」
「うん。同じ大学の後輩。とても……親切にしてくれた人」
男は身をさらに縮めた。
(栗木?優ちゃんと同じ大学?)
……栗木さんも優さんのファンクラブに入っていたんだって。〈アシェラ〉とか呼んじゃってさ。あの崇拝振りは正直、少し引いたよ……
直哉との会話の中で出てきた言葉が浮かんできて、気がついたら私は優ちゃんの部屋の中に足を踏み入れていた。

