俺は心配をしつつ、どうすることもできなく

て、自分の家に帰った。

家について、自室についても、夕暮のことが

離れなかった。

心配だった。

食欲もなくて、もう寝ようと思った時、ケー

タイが鳴った。

「…もしもし」

『…坂下』

「えっ、川崎?」

川崎から電話が来たのは初めてだった。

メールはあったけど、必要事項だけ。

なんで…?

しかも、涙声だし…

『…あたし、親友失格だ』

「どういうことだよ」

『…あたし、坂下には悪いけど、奈央が青葉


クンを好きなの知ってた』

「…あぁ」

俺も、夕暮が光輝を好きなのは知ってた。

『…けど、あたしは奈央が、青葉クンのこと

で悩んでるのは、知らなかった』

「あぁ」

『奈央、青葉クンと自分の関係に、最近ずっ

と悩んでたんだって…なのに、あたしは気づ

かなくて』

「…うん」

『…奈央、青葉クンにキスされたんだって。

で、青葉クンがわからなくなって、告白しち

ゃって…で、関係がこじれてるって…』

「……」

キス…ね。

もう俺らも高校生だし、あり得なくはないけ

ど…

やっぱ、辛い。

『…奈央、返事はいいって言ったらしいの。

けど、それじゃ奈央は、ずっと立ち直れない

よ…』

「あぁ」

あぁ…

俺はどうしたらいいんだろう。

『…どうしよ、坂下』

いつもみたいな、元気のあるクールな川崎の

声とは全く違う、その涙声が、俺を余計わか

らなくさせる。

「とりあえず、泣き止め」

『…うん』

「俺らは、なにもしちゃいけない。あいつら

の問題なんだ」

『…けど』

「まぁ、俺も光輝見たら、喧嘩ぐらいはしそ

うだけどな」

『…うん』

「とりあえず、明日、学校に行けばいい」

『…奈央にメールしとくね』

「ちげぇよ。川崎、お前が」

『えっ…?』

「もちろん、夕暮もだけど、川崎が学校にい

なかったら、夕暮はもっと辛くなる」

『うん…わかった』

「じゃあ、また明日な。おやすみ」

『坂下…』

「ん?」

『………ありがと。おやすみ』

ブチッと電話を切られた。

ありがとって…声小さすぎだし。

まっ、川崎らしいけど。




次の日。

学校に行ってみると、教室には川崎と夕暮の

姿があった。

「はよ」

「おはよ、坂下クン」

苦笑いだけど、しっかり笑おうと頑張る夕暮

の姿は…なにか切なかった。

無理に笑うその姿は…

俺は、見たくねぇよ。

俺には、素直な顔を見せてほしい。

そして、しっかり笑ってほしい。

あの、初めて会った日の笑顔が見たい。






けど…