「息子…?」

「あなた、なに言ってるの?碧よ」

「俺のこと、覚えてないわけ?」

「ちょっと…碧さんっ…」

子分が騒ぐ。

カラコンをしていない瞳で睨む。

なにも言わなくなる子分。

「どうかしたか?」

「違いますっ。すいません」

「息子な。俺は、記憶が飛んでたみたいだ。

少しの間だが、桜吹雪組を守れるか?」

親父の顔は、真剣だった。

…そうかよ。

「当たり前」

「そうか。頼むぞ」

…なんなんだよ。

てか、最初からその覚悟はしてあった。

そんなことを言われる筋合いはない。

「…じゃあ、俺は帰るから」

病室を出る。

「碧ちゃんっ」

「…皐月さん」

「…どうしたの、その髪」

…髪。

「切っただけですよ」

「切っただけって…碧ちゃん、髪、大事にし

てたのにっ…」

「…髪なんて、また伸ばせばいいんです。け

ど…このチャンスは、一度しかないんです。

…認めてください」

…皐月さん、ごめんなさい。

皐月さん、いつもあたしの長い髪を、きれい

だって、褒めてくれてましたよね。

唯一、あたしは女の子として、認めてもらえ

てるのが嬉しくて、大切にしてました。

…けど。

やっぱり、あたしは守られてばかりは嫌なん

です。

…男だったら、全てを任せてくれる親父に、

いつまでも甘えてられない。

…自立、するんだ。

「男なんて言っても、すぐにバレるだろ?や

めろよ」

こんなに荒い口調の皐月さん、珍しい。

…心配、かけてるな。

「すいません」

軽くなった頭を下げる。

髪が短いかどうかで、こんなに違うんだ。

「…俺、やれるだけやりたいです」

「…そうか」

「…それと、俺…高校、琉咲≪るざき≫に入

りますから」

「それは無理だよ!!それだけは、やめた方が

いい!!」

「…今、反対されても無理ですよ。俺、もう

入学願書出しましたから」

「そんな…無理に決まってる!!」

「もう、お袋に言って、男として願書を出し

ましたから」

「…そんな、危険な」

「俺、強くなりたいんです。今よりも…」

「…どうしてそんな」

「俺、ただ認めてもらいたいんです。…親父

に。親父のまわりでずっと、俺が女であるこ

とを悪く言われてるの、知ってたんです。そ

れで、俺は…ずっと、男になりたかった。強

く…なりたかった。だから、俺は…誰に、何

を言われても、俺は強くなる。親父にこれ以

上、恥ずかしい思いはさせたくない」

この…あたしの瞳に誓って。

あたしは、強くなる。

男より強い、男になってやる。

親父の記憶を塗り替えてでも、あたしは男に

なってやる。

…親父のため。

あたしのためにも…