「碧サマッ」

「柚希さん、どうかしました?」

焦った様子で迎えにきた柚希さん。

「組長がっ…銀の親分が、倒れましたっ…碧

サマ、すぐに病院へっ…」

「…わかったっ…早く」

親父が倒れた?

んなはずは…




「親父?!」

病室に入るなり、叫んだ。

親父を囲むのは、やっぱり子分。

「誰だ、こいつ」

親父が静かに話す。

「は…?」

「誰だ。俺の病室に女を連れ込んだ奴」

「ちょっと、あなたっ…」

お母さんが、すぐに声をかける。

「お前も、この女を追い出せ」

「でも、この子はっ…」

…ダメだ。

「…黙れ」

お母さんの前に手を出して、話をとめる。

「でもっ…」

「いいから」

お母さんが黙る。

子分たちも黙る。

「…すいませんでした。あたし、病室を間違

えたようです。お騒がせして、申し訳なかっ

たです」

…少し視界が滲んでるように見えるのは、気

のせいだから。

気のせいだと、思いたいから。

「…失礼しました」

屋上に走る。

久しぶりに、息が切れた。

下を見ると、元気にサッカーをしている中学

生が見えた。

パジャマ着てるのに、サッカーなんかやって

いいのかな。

…なんか、邪魔な気がする。

いいや。

もう、今日だけは許す。

カラコン…とろう。

「…碧」

「…お母さん」

お母さんの声が聞こえて、振り返った。

「…あら。久しぶりに見れたわ。その目」

「…そう」

「お父さんね、部分的な記憶喪失なの」

「…部分的」

「今日、あなたの次のお見合い相手てお食事

していたの。その時、お父さん…騙されちゃ

ってね。喧嘩になったのよ。…あなたを思う

ばかりに、しっかり考えずに、ただ行動して

たのね」

「…なんで」

あたしのために、喧嘩なんてするの。

あたしのために…記憶喪失になるの。

…でも。

部分的に…だったんだよね。

明らかに、あたしだけ忘れられてた。

きっと…

親父にとって、あたしは忘れたい存在だった

んだ。

…親父、ごめん。

あたしのことは…忘れて。