一発殴らせてもらうから。

思いっきり殴られた奏クンは、病院の冷たい

廊下に倒れた。

けど、殴られても、奏クンは、まだうつ向い

ていて。

殴られたのに、俺を睨むこともなくて。

…なんで奏歌と別れた?

なんで、見舞いに来た?

わかんねぇよ…

「すいません…あの…」

遠慮がちになにかを渡してきた。

「奏歌に…渡してください。俺からとは言わ

ないでもらいたいんですけど…」

「…なにこれ?」

「ブレスレットです。俺、イマイチ女の子の

喜ぶ物とか選べなくて、ひとつしか買えなか

ったけど…いっぱいつければ、傷が目立たな

くなると思ったので…」

「へ~」

一応、考えたんだ。

でも、早いな…情報。

しかも、この短時間で買ってくるなんて。

やっぱり、まだ奏歌のことが…

「渡して…くれますか?」

「あぁ。しょうがない」

「頼んどいて、自分からってことは隠して…

だなんてワガママ、すいません」

…なんだ、頭良さそうじゃん。

「…ありがとな」

「じゃあ、あたしも買いに行こ。秋山クン、

いいアイディア、ありがと」

「秋山さん」

先生に呼ばれ、俺は両親と一緒に話を聞きに

行く。

「……わかりました」

奏歌は…助かった。

でも、まだ目を覚まさないようで…

奏歌は、個室の病室に行った。

部屋に行くと、奏クンがひとりで奏歌の病室

にいて、奏歌の頬にキスをした。

「…奏歌、ごめんな。俺が悪い…」

奏クンはやっぱり…

「…奏歌、好きだ。でもな…もう、お前が好

きだった奏じゃねぇし…俺が、お前をここま

で追い詰めちまったから…」

奏歌が好きなんだな。

奏クンが涙をこぼした。

「…俺は、もうお前の傍にはいられねぇよ。

でもな…聞いててくれ。俺が、誰と付き合お

うと、キスしても、俺は奏歌だけが好きだか

ら。俺なんかより頼れる奴見つけて…幸せに

なれよ」

そういうと、奏クンは奏歌の瞼に、もう一度

キスをして微笑んだ。

病室を出る時、奏クンは俺を見つけて、頭を

下げた。

「できたら…また来いよな」

「…はい」

奏クン…

奏歌を幸せにしないなら、もう奏歌の傍には

寄らないでほしい。

けどな…

奏歌を幸せにする自信があるなら…奏歌、離

すんじゃねぇよ?