今日は最後の仕事。

俺じゃなく、奈央の。

この前、奈央って呼んだ時、無意識に出たそ

の呼び方に、俺自身が戸惑った。

…奈央の方がびっくりしてたけどな。

いつも、名前を呼ぶ時に、なっ…って言って

たけど。

夕暮って呼べるように頑張ってた。

自分の想いを隠し通すために。

俺が奈央を好きになって、付き合ったりなん

かしたって、奈央を傷つけるだけだから。




ひとつ、舞台挨拶が終わった。

あとふたつ、舞台挨拶が終わったら、きっと

もう、俺と奈央が一緒にいることはない。

あとふたつで…俺の恋は終わる。

俺は、移動のバスに乗った時、つい奈央の近

く…正確には、同じ列に。

近くにいたかった。

最後の日だから。

次の舞台に向かう。

さっきと同じ席に座った。

…俺、なにがやりたいんだろうな。

奈央を傷つけないために、あきらめる。

なのに、近くに座ったら、また傷つけんの、

俺だってわかってんのに。

…俺、自分勝手だな。

ごめん、奈央。

奈央が小林と話してる時、奈央は俺の方に顔

を向けている。

奈央だから、真剣に小林の話を聞いてるんだ

ろう。

俺は、窓の反射で、奈央の顔を確認する。

…少しぼやけてるけど、どんな表情をしてい

るか、よくわかる。

…無理させてんな。

ごめん…