「三浦さ「篠宮ー!!」


三浦さん、と呼ぼうとした私の声は。少し離れたベンチから呼ばれた声によって呆気なく飲み込まれてしまった。

振り返った先にいるのは勿論清水くん。



自分の腕時計を指差すジェスチャーを見せる清水くんと同じように、私も視線を左手首にある小さな腕時計へと移す。


嗚呼、どうやらお昼休みの終わる時刻らしい。

電話を切るのはすごく惜しいけど、授業がある。私は再度携帯を耳に強く押し付け呼び掛ける。




「三浦さんすみません、授業です。」

“……菫、”


と。
また清水くんの私を呼ぶ焦った声が聞こえた。


「すみません、また」と素っ気なく言い放ち。終話ボタンを押すことを嫌がる親指に無理矢理にでも脳ば押ぜと命令を下す。



電話口から機械音だけが虚しく響いて、本当は切りたくなかったとお昼休み終了という現時刻が恨めしかった。