リビングに戻った私は、ソファーの背もたれにかけてある黒いコートを手に取った。

叔父さんに返さなきゃ、とそれを持って踵を返した瞬間。


「―――――っ、」



ふわり、香る煙草の匂いに私は苦々しい顔で小さく自嘲気味に笑った。


「…あーあ…。」

また、クリーニング出した方がいいのかな。



叔父さんは煙草を吸わない人だし、当然私も煙草を吸わない。そのことを叔父さんは知っている筈。

それなのにコートから煙草の匂いがしたら、不審に思われてしまう。



手早く準備を済ませた私はコートを紙袋に入れ部屋を出た。

今日の講義は午後からだったし、夕方からはバイトがある。だったら今の内にこれをクリーニング屋に持って行ってしまおう。