「嘗めんなよ。」



お父様の鋭い視線と言葉に怯むことなく。間髪入れずにそう言った春海。

ニヤリ、挑発的に笑った横顔はあまりにも妖艶。つい見惚れてしまうその綺麗さは狡い。




「途中で手放せるくらいの想いなら、必死こいて捕まえようとなんかしなかった。」

「……。」

「菫しか、いらない。」

「…そうか、分かった。なら頑張りなさい。」



深く頷いたお父様は、今度は私へと視線を移し菫さん、と名を呼んだ。




「僕からも、不甲斐ない息子だけど宜しく頼むよ。」

「っ…、はい…!」



感極まって涙を流す私の頭は隣から伸びてきた春海の腕によって抱き寄せられる。


そして、私にしか聞こえないくらいの声量で耳元で囁かれた甘い言葉。








「菫の檻は、俺だ。」


逃がさないから覚悟して、と囁いた春海の目を見つめ私も囁く。