なんて思いながらも、実際そんなことなく。私は隣に腰掛けた春海の端正な横顔を見上げた。
すぐにその視線に気付いた春海は、水を口に含みながら首を傾げた。
「どーした?」
「…お金持ち。」
「親父がな。」
「……帰りたい。」
ほんともう、体調悪くなってきた。お腹痛いし頭痛いし吐きそうだし体全身震えが止まらないし。
もう一度、帰りたいと呟いた私の頭を撫でながらただ春海は愉快げに笑うだけだった。
―――――その時。
爽やかなボーイさんの「お待ちしておりました」という、丁寧な言葉の中に大きな緊張を感じ。
私も体を強ばらせた。口角は固まり、上手く笑う術を忘れてしまった。
「あら、春海だわ。」
「ん?ああ、もう着いてたのか春海。」
「まあね。てか、貴方達の方が遅れるなんて随分だな。」


