「菫、俺がいる。」
「…ん。」
「大丈夫だ。普通に、優しい人達だから、な?」
私の耳元で囁かれる声音は酷く優しい。きっと、緊張している私を気遣ってくれているんだろう。
小さく深呼吸をし、私は自由のきく片腕を春海の背に回す。
――――大丈夫、きっと大丈夫。
私の隣には、春海がいてくれるんだから。繋いだ手がほどけないように、力を込めれば答えるように春海も握り返してくれた。
この温もりがあれば、私は大丈夫だ。
不思議と緊張はなくなっていて。私に残るのは激しく惚気た幸福の思いだけ。
多分、私はもうこの愛しすぎるほどの熱を手放す事は出来ないだろう。
少し抵抗はあったが、繋いだ手を自ら離すことなんて出来る訳なく。指を絡めるよう繋いだまま自動ドアをくぐった私達には痛いほど視線がぶつけられた。
それに対してまったく動じず飄々とした態度で私の手を引く春海は、やはり大物である。


