テレビとかでも見たことあるけど、私みたいな一般人の女子大生に訪れる機会など無いに等しい所だ。
放心状態に近い私が座る助手席側のドアが開き、ゆったりとした動作で視線を向けた。
「起きろよ?菫。」
「…起きてますよ、私は。」
いつの間にか車を降りていた春海が、車体に腕を置き意地悪く私に笑いかける。
ゆるく睨んではみるが効果はなし。
目の前に差し出された大きくも、綺麗な手に再び顔を上げると。春海は柔和に口角を持ち上げて「行くぞ」と言った。
数秒の間をあけ、差し出されたそれに自分のてをそっと乗せた。易々と包まれた手が引かれ車から足を地面に降ろす。
ヒールのコツリ、と鳴る音がやけに鼓膜に響いて。暴れ狂うように鳴り始める心臓に気絶しそうになる
と。
後頭部を引き寄せられるようにして、私の頭は春海の胸板へ。
手は繋がれたままで、春海の優しい温かさがそれから伝わってきて緊張が安らいだ。


