“菫ちゃんも、緊張しないでいらっしゃってね。あの人も歓迎してるから。”
「はい、ありがとうございます。」
その後、二言程言葉を交わし通話は終了した。
携帯を春海に手渡し、私ははーっと深い息を吐き出しシートへ背中を埋める。
隣から聞こえるクスクスと笑う音に、チラリと視線を上げれば。細められた優しい目が私を横目で見下ろしていた。
「どーでしたか?」
「…優しそうなお母さんですね。」
「安心した?」
「はい。」
社長夫人なんて肩書きを持つ女性だから、もっと厳しい人なんだろうかとか思っていたから。
優しい物腰に安堵したのは言うまでもない。
春海はまだ小さく肩を揺らして笑うと、携帯をスーツのポケットへ突っ込む。
「母さんとは直ぐに仲良くなれるんじゃない?」
「だといいんですが。」
「まあ、親父と仲良くなる必要はないから。」


