ドッドッドッ、と尋常じゃないほど胸を叩く鼓動を落ち着かせるよう数回深呼吸をして。手の中にある携帯を耳に押し当てた。
呼び出し音が鳴り始め、コール4回目でそれは繋がった。
“はいはーい?”
「っ、あ、の…!は、初めまして春海さんとお付き合いさせて頂いています、篠宮菫と申します…!」
“え…まあ、あらあら。初めまして春海の母です。”
「えと、すみません。今ご挨拶に向かってるんですが、渋滞にかかりまして…」
“あらそうなの?じゃあ、まだ着きそうにないの?”
春海の凛、とした通る声とは違い携帯越しに聞くお母様の声はほんわかした柔らかい声で。少し胸の緊張が溶けた。
すみません、と返せばいいのよと笑う声が鼓膜に響きホッと息を吐き出した。
“菫ちゃんと早く会ってみたくて、うずうずしてるの。春海にさっさと渋滞抜けなさいって言ってくれるー?”
「聞こえてんだけど。無理言うなって言って。」
春海とお母様両方の伝言係を押し付けられ、苦笑いを浮かべて対処する。


