肝心なこと、と言われてもテンパっている今の私の頭ではそれが何なのか考えられない。


首を傾げて見せた私の頭をまた優しく撫でた春海は、片手をハンドルに乗せ口の端を綺麗に持ち上げた。



「俺は、お前以外眼中にないってこと。」

「ッ……!」

「反対なんかさせねーし、お前のことは絶対守るから安心して会え。」



そう言い、前に向き直った春海は滑らかに車を発進させた。

微細に伝わってくる振動も、座り心地抜群のシートで薄れて最早無いと等しい。



―――私は、つくづく単純な女だと思う。


さっきまでの吐きそうになるほど胃も軋むくらいの緊張は、春海の微笑と言葉によってどこかにいってしまったようだ。

かと言って、皆無と言うわけではないが。マシになったと言うのが正しい。



それでもあの極度の緊張感が和らいだのは、やはり春海のおかげ。

春海だから、なのだろうけれど。