春海は自分の両親だし緊張なんてしないのかもしれないけど、私は初対面だし、一般人の女子大生だ。


お金持ちでもないし、相応しくないなんて言われたらどうしようとか考えてるのに。だって私そんなこと言われたら絶対泣くよ。静かに泣くよ。




目の前に停まった見覚えのある高級車の助手席に乗り込めば、煙草を吸いながらネクタイを緩める春海。


その余裕綽々な態度も纏う雰囲気も今はどうしようもなく苛々する。



ふわり、鼻を掠める濃い煙草の匂いとシトラスのそれは春海の愛用する香水。

この香水以外の香りを彼からは嗅いだことがないから、ずっと使用してるんだろう。




が。

今の私には、だらけたようなその煙草の香りは無性に腹が立つ要素。


ぐっと眉根を寄せた私の表情を見逃さない春海は、煙草を携帯灰皿へと押しつけて火を消す。